『夢と狂気の王国』に住む人たちを観てきました
映画を観て、泣き疲れたのは初めてでした。そんな私に言ってあげたい。
「宮崎監督、まだ生きてるから」
スタジオジブリを映したこの作品は、ドキュメンタリーかと思いきや、どうやら「映画」らしい。
しかし「裏側」には違いなく、いつもそんな特集番組をよく見ていたし、その延長線上で気になって観てみた映画でした。
私は、宮崎さんが映画を作る姿に、ずっと惹かれていました。
正直言えば、私はジブリ作品に詳しくないです。同世代の女の子たちと比べても、ジブリ作品への思い入れは小さい。(もちろん「好き」ではある)。思い入れの強さには子どもの時の記憶がとても影響しますから、幼少期、ジブリをほとんど見てこなかったことを考えれば当然です。
だから、ジブリ作品への思い入れとは別に、惹かれる理由があって、それはきっと宮崎さん自身が持っているのだと考えるようになりました。
そこへ、この映画です。観ますよ、そりゃ。
観ながら、色んなことに思いを巡らせていました。
純粋に映画が作られるまで過程を見られる楽しさもあるんです。それは作業風景を見学するワクワクした楽しさでした。例えば堀越二郎の声に庵野さんが決まった瞬間とかね。好奇心が満たされる感覚。
でも、それだけじゃないんです。むしろ、私にとってはそれ以外の部分が大きかった。
宮崎さんが話す言葉一つ一つに耳をそば立てながら、この人はこの時、何を考えながら映画を作っているんだろう、とずっと考えていました。本当のことなんて分かるはずないのに、知りたくてしょうがなかった。
そして、映画作りに真摯に向き合う姿に、どうして、なぜそこまでするのかと、問いたくなりました。だって、大変でしょう?難しいでしょう?苦しいでしょう?
なのに、笑って絵を描くんです、宮崎さん。時に歌を口ずさみながら。時にカメラに話しかけながら。もちろん、そんな日ばかりじゃないこと分かってる。でも、こんなに直向きに映画を作って、子供たちを楽しませたいと言う。自分のためじゃなくて、人を楽しませたいって。
どうしてこんなにも素敵な人がいるんだろうと、涙が溢れました。感動のラストシーンに頬に一筋の涙が、などではなく、もう何度も、色んな場面でボロボロと泣きました。
何に泣いたのか、明確に言葉にはできません。ただ、宮崎さんの姿は泣きたくなるほど素敵だったんです。
今回、「宮崎駿監督が主人公の映画」を観てきたように思えました。
ドキュメンタリーと銘打っていないとは言え、「主人公」という言葉は適切ではないかもしれません。しかし私には、『風立ちぬ』で堀越二郎の人生が描かれたように、この作品でもまた宮崎駿の人生を映し出しているように見えたのです。
そう考えたら、納得できることがありました。
私のジブリ作品への思い入れはそれ程強くないことは前述した通りですが、『風立ちぬ』だけは違います。主人公、堀越二郎は、ジブリ作品ではかつてない程、私の心を攫っていきました。どこまでも飛行機の夢を追った二郎が大好きになったのです。
そんな二郎を見て、私はやはり泣きました。それもかなり前半で。飛行機が大好きで仕方のない気持ちを体全体から発する二郎に、なんて素敵なんだろうと惹かれたのを覚えています。
宮崎さんに抱いた気持ちと、とても、似ていることに気づきました。涙を流した理由もきっと一緒なんだと、納得したんです。
確か宮崎さんのことを、鈴木さんかご本人が「理想主義」だと仰ってましたが、正にその理想を追い求める姿が私の琴線に触れました。二郎についても同じく。
共感と言うのはおこがましいでしょうか。自分と似ているだなんて言いませんよ。でも、その姿が好きだった。憧れや、愛おしさ、尊敬、全部ひっくるめて、どうしようもなく好きだったんです。
そんな姿を映してくれたこの映画に、そして誰よりも宮崎さんに、ありがとうを言いたいです。
随分、宮崎さん贔屓な感想になってしまいました。たぶん宮崎さんに関する発見が多かったからですね。
鈴木さんにもまた別の惹かれるものがあり、高畑監督については『かぐや姫』を観てからでないと語れません。いや予告だけで十分話したいことてんこ盛りなんですが。
まとめましょう。
宮崎監督の引退を聞き、私は「一つの時代が終わるんだな」と感じました。私が生まれた時には、宮崎さんは監督であったわけで、それが(一応の)終わりを迎えるというのは不思議なものです。
宮崎駿という人間は、アニメーションの歴史を振り返った時に紛れもなく一時代の人物として残るでしょう。その人と共に、「今」を生きれたことを嬉しく思います。
宮崎さんが、それぞれの時代を投影した映画を、その時代に見られる。これは、今を生きる私たちの特権です。
しかし、それも確実に「終わり」が近づいている。
この映画を観て、彼の時代に立ち会えたことを深く実感すると共に、「終わり」も強く意識しました。
そして私は、「生きねば」と思ったのです。終わりは始まりなのだから。
ありがとう。
最後の場面、宮崎さんが、今この世界に生きているんだというのが感じられる撮り方をしていて、とても好きでした。
おわり。