ゲーム開発と人工知能(AI)の関係性を少し理解できた話
「ゲーム開発」と「人工知能(AI)」
この二つって、近いようでいて、今までうまく関連付けられないでいました。
ゲームのプログラムの中にAIが組み込まれているというのは、なんとなく分かるんだけど、それって結局は技術論に終始する話なんじゃないの?と。
それが、違いました。ゲーム開発における人工知能に取り組む、三宅陽一郎さんのインタビュー記事を読んで、たくさんの新しい視点を得られました。
この記事が言わんとしていることは、冒頭で紹介されているとおり。
この記事は、日本のゲーム産業が21世紀に世界市場で存在感を失い、今や新興国の国々までもが背後に迫ってきたシビアな状況に、実は「AI技術の軽視」という問題が一つあるのでは――という視点から強く光を当てるものだ。
(上記記事より抜粋)
まさか、日本と海外におけるゲーム開発スタイルの違いにまで話が及ぶとは思いませんでしたが、それだけに新しい知見の宝庫で刺激的。
ゲーム開発においてAIが果たす役割が、どういう歴史を辿ってきて“今”に至るのかが丁寧に解説されています。
ゲームのAIと聞くと、キャラクターの挙動という認識ばかりだったけど、ゲーム開発においてAIがどんな役割を果たしているのか、海外の事例と歴史と共に追えて良記事。ゲーム開発におけるAIの活用という分野でもFF15が浮かんでたけど、この三宅さんこそが、FF15のAIに関わってる人だわ
— チョコタフ (@choco_tough) 2017年5月12日
人工知能(AI)が人間の仕事を変える
この記事の主旨は、ゲーム業界はこれから「人工知能(AI)」にどうアプローチしてゲームを開発していくか、というクリエイティブ面に重きを置いているものだと思うのですが、ちょっと違う分野にも思考が飛んでいきました。
ゲーム開発におけるAIの記事を読んで、高生産性へのシフト、人材不足、日本人の創意工夫など色んなキーワードが浮かぶ。海外のAAAタイトルに対抗できないのは単なる物量の問題だと思っていたけど、ゲームにおいても自動化で一人当たりの生産性を高めるという手法が可能なのかとハッとした。
— チョコタフ (@choco_tough) 2017年5月12日
海外のゲーム開発現場では、今まで人間が手作業で担っていた部分がAIに置き換えられてきた、という流れを読んでいて、ん?これ、どこかで聞いた話だな?と思って、一冊の本が浮かびました。
この本には、これからの社会は人材不足により、限られたリソースの中で一人ひとりが生み出す価値を上げる必要があり、すなわち高生産性へのシフトが起こり、今ある仕事はいずれ、AIを含むプログラムやロボットに置き換えられる、という話が書かれています。
下記の記事でも触れられていますね。
関連記事:モノは安く・ヒトは高く - Chikirinの日記
※生産性の概念については下記の記事がわかりやすいです。
→「生産性の概念の欠如」がたぶんもっとも深刻 - Chikirinの日記
ゲーム開発の中で、AIが果たす役割が大きくなり、より進化していくことは、人の働き方を変えていく動きでもあるんだ…と気づきました。
AIは、ゲーム業界の働き方を変える、ゲーム業界の中で高生産性へのシフトを引き起こすファクターになり得るのだ、と。
この著書の中では、AIやロボットによって代替される仕事については下記のように書かれています。
なくなる仕事の多くは人工知能やロボットによって代替されるわけですが、それらは必ずしも「自動化しやすい仕事」ではありません。
そうではなく、淘汰されるのは人工知能やロボット(以下“キカイ”)が担当したときと、人間が担当したときの生産性の差が極めて大きい仕事です。今は人間がやっている仕事で、それをキカイに担当させれば一気に生産性が上がるーそういう仕事から順にキカイに置き換えられ、その結果が社会の高生産性シフトにつながるのです。
ゲーム業界に片足を突っ込み、そして長時間労働をしてきた身としては、自分の業界における「働き方の変化」には興味があったものの、具体的には想像できず。
開発現場にものすごく詳しいわけではないので、現場を近くで見ていると、どこをとっても、人のクリエイティブな発想が必要に思えて、うまくイメージできませんでした。(もちろんAIはクリエイティブ分野にも進出しているのは知っていたのですが)
しかし三宅さんの記事を読んで、そのヒントをかなりもらえた気がします。
優秀な人材を大量に獲得する、以外のアプローチ
そしてこれは、人材不足な現場にもたらされる光だとも思います。
私は採用関連にもちょろっと触れていたのですが、世の中の人材不足の傾向は、ゲーム業界でも例外ではなく、いかに優秀な人材(学生含む)を獲得するかはどの企業においても課題だったように思います。優秀なクリエイターの獲得を目指し、各社、創意工夫を凝らして学生などにアプローチしていた印象です。
そんな中、数の解決法以外に、人材不足へのアプローチは無いものかと考えていましたが、ゲーム開発の内容を考えれば考えるほど、結局は人を増やさないといけないんだろうか?でも、それって結局、インプットを増やしているだけだし、今後他社との人材獲得競争が激しくなっていく中で、これまで以上のインプットを獲得してアウトプットを大きくしていくのは難しいだろうな…と思考の壁にぶつかっていました。
しかし、AIを活用して、一人あたりのパフォーマンスを上げていく(生産性を高めていく)という別のアプローチの可能性が見いだせて、しかもその可能性はまだ広がっている。その事に気づき、とてもワクワクしています。
そもそもテクノロジー産業なんだから、真っ先にコンピューターへ仕事を渡すのを考えるんだけど、何を自動化するのかが見えてなかった。知れば知るほど結局はマンパワーが必要なのではと考えてた。そこに光がさしたという感じかな。で、それはもっと広がる可能性がある、と。すごいなー。ワクワクする。
— チョコタフ (@choco_tough) 2017年5月12日
もちろん現場には、もっと根本的な問題があるかもしれないけれど、最先端の技術を取り入れて急速に、けれど時代に即して柔軟に進化してきたゲーム業界だからこそ、真っ先に新しい働き方になってくれると嬉しいです。
面白いことを考えている人が多い業界だからこそ、作業に埋もれず、面白いことを表現していってほしいなという個人的な願望なんですけどね。
AIがもたらす、もう一つの興味
インタビュー記事の中で、もう一つ印象的だったのが、ゲームデザインをAIが制御することで、ユーザーに毎回異なる体験を与えることができるようになる、という視点でした。
三宅氏:
そんな背景もある中で、敵キャラクターの配置やゲームイベント、時にはマップまでもプレイヤーの腕前に応じてダイナミックに変えていく発想に、現代のゲーム開発は切り変わっています。先ほど言った「メタAI」は、言わばプレイヤーがログインするたびに、毎回違う経験をさせる役割があるわけですね。
そして、だからこそ、その一回の経験を他者に分かち合いたいと思うわけです。21世紀に“洋ゲー”でゲームAIが遂げた驚異の進化史。その「敗戦」から日本のゲーム業界が再び立ち上がるには?【AI開発者・三宅陽一郎氏インタビュー】より抜粋
メインとなるストーリーの体験は一緒でも、ゲーの世界で過ごす時間の中身は変わる。クリアまでに行き着くドラマも様々。
何が起きるか分からないという不確実性は、心が踊らされます。
もともと、物語の世界とインタラクティブな関係を築ける総合芸術(エンターテインメント)という点で、ゲームと舞台(演劇)は似ていると思っているのですが、ゲームにもっと不確実性が入り込んできたら、ユーザーの体験もより似てくるんじゃないかな。
舞台は、物語は一緒なのに、生だからこその不確実で不安定な要素があり、日々変わった景色を見せてくれる点がおもしろいと考えているので。
MMOやオープンワールドのゲームの体験には近しいものがあるとも思っています。
ゲーム体験はこれからまだまだ進化しそうで、とっても楽しみ。
(とはいえ、毎回変わったら上達する楽しさのハードルが高くなりそうだからバランスが悩みどころ)
もともと興味のあった分野なので、これを機に、三宅さんのAIに関する著書など読んでみます。